新春講演内容
テーマ:技術を育む目 講 師:水野 博之(高知工科大学副学長,元松下電器産業兜寰ミ長) 開催日:平成16年1月25日 午後1時00分〜2時59分 講演概要 昔は会社で技術関係をやり、今は幾つかの大学と数社の社外役員を兼務している夢影的な存在から現在の日本を見るといろいろ見方が変わってくる。今日はそういう立場から技術というものをお話させていただきます。いろいろな所を飛び回っていると、皆さんもお感じのように大変「不透明」です。 -不透明について、株価や小泉政権の構造改革について論述- 問題は、日本の構造改革とは何か?。これはハッキリしていると思う。 日本は、資源、天然資源が非常に乏しい国ですから1億以上の国民が生きていくためには我々の知恵を結集して、付加価値の高いてきがいかんを創造して世界に打って出る。これなくして日本の立国はありえない。このことは、誰に言ってもそうで、そういう意味で政府は科学技術基本法をつくった。 1次、2次で41兆円を注ぎ込んでいるが・・・? -科学技術基本法に関して論述- とにかく、科学技術は日本の基本で、日本を支えるもの。 しかし、日本の体制はそうなっていない。明治のキャッチアップやプロセスの中で、科学技術ほどバカにされてきたものはない。国を見れば、あらゆるポジションで技術者が持っているポジションはほとんどない。全ては文科系、民間会社も同じ。 -松下幸之助氏、政府審議会での技術者の言、中国での国家プロジェクトの例など- これらは、エンジニアでなければできない。 では、我々はどのようにしたらよいのか。どのように発想すべきなのか、を少し申し上げ たい。 -レジュメに沿って、OHPで説明- @MV=PQ 経済学で使われている公式 M=Money V=Velocity(Speed) P=Price Q=Quantity A個人マネーの内訳と流れ、 B日米個人金融資産の比較 要は、金を動かすことが基本。金を動かすためには、魅力あるコンセプトの商品ができればよい。 -例としてルイ・ヴィトン- 逆に言えば、日本国内でお金はあるが、魅力ある商品が無い、ということになる。 これは、我々技術者は大いに発奮しなければならない。国が悪い、とか言ってられない。 ジョセフ・アロイス・シュンペーターが一生を通じて求めたコンセプトは、「イノベーションによって社会は変革する」。 イノベーションとは? ・ イノベーション=技術革新ではない、ということを認識してほしい。 ・ 社会を変える新しいやり方、である。 シュンペーターはイノベーションを「今あるものの新しき組み合わせ」と定義している。そして、新しい組み合わせが→新しい価値を生み→創造的な破壊、を起こすプロセスであるといっている。 定義だけでは分からないので例を -例の概要を次に- ・ アポロ計画-あらゆる既存の技術が使われている。新しい技術は全く使われていない。 新しい技術は怖くて使えない。この世の中にあるあらゆる技術を使った。それをどのように組み合わせて成果が上がったというところからMOTというコンセプトが生まれた。 ・鉄道-鉄道はトランスポーテーション。鉄道の斜陽によって宅配便などのニュービジネスが生まれた例。 ・二又ソケット(ソケット+ソケット) ・地下足袋(足袋+ゴム) -松下幸之助氏とシュンペーターとの比較説明- ・自動車(オーディオ+ビデオ+ナビ+居住空間) ・明太子(タラコ+塩)辛し明太子(タラコ+唐辛子) ・ラジカセ(ラジオ+カセット) ・携帯電話(音声+データ+映像+カメラ) ・宇宙、etc 学問の世界の例として ・物理+化学→物理化学 ・社会+心理学→社会心理学 ・ エントロピィ→熱力学、生命論、情報論 ・ 拡散論→ブラウン運動、ランダムワーク、経済 -経済についての説明から続き、ヤング報告などの説明- 日本は、今も、以前も、2年前のITのキャッチアップ政策といい、いまだにキャッチアップのポリシーをふんまえていれば上手くいくと思い込んでいる。キャッチアップの基本は西欧の知的財産と質がよくて安い日本の労働力。ところが安いはずの労働賃金が高くなり、どうにもならなくなった。成り立つはずがない。後ろに10何億の人口を抱える国が安い賃金で控えている。 そういう中で、政府が依然としてキャッチアップの亡霊にとりつかれているから先が見えない。 このような中で、我々がやらねばならないのは、イルュージョン(幻想)から抜け出ることで、我々自身の足で歩くこと。それは二又ソケットでも地下足袋でもいい。皆さん方、エンジニアの方が発想したささやかなものが世界をつくり、大企業をつくる。そのささやかなものを無視して、何だか恐ろしいものを盛んに言う。これが国が経済を落としている。 情報化社会がまさにそれ。 情報化社会はネットワークによる新しき組み合わせ。今ある価値が新しい組み合わせによって変化する。最初はアマゾンドットコムによる本の発売。これは新しきビジネスモデル。ディジタル革命による新規事業分野の出現。日本のネックは規制。 恐らく、日本人のもとに発想によってないものはない。あるとしたら発想の事なかれ主義と発想を発想として育てない社会システムのほうが大変な問題。 -Neue Kombinationenの生成の図を示して思考の基本を説明- 人間は頭の中に、無いものを思考することはできない。ということは有るものを組み合わせながら新しい創造というものを考えていく。そこで「構想力」という言葉を申し上げる。 いろんな情報が頭の中にある。それをどう結合するか。その結合の知恵、工夫がエンジニアが考えていくことで大小を問わない。これが新しければイノベーションに通ずる。と申し上げてよいと思う。 -松下幸之助氏の例で説明、「まねした電器」と呼ばれたことについても- -松下幸之助氏は自転車用ランプで技術イノベーションとマーケティングイノベーションを同時にやった- ここで、イノベーションという言葉に踊らされてはいけない。ということを申し上げたい。 米国の情報社会は、ブッシュのリニアモデルを否定するところから始まった、ことを覚えてください。それは何故かというと、日本が反面教師になる。 日本が発想においてキャッチアップから抜け切れていない例として、 -ワットから始まる産業革命の流れと、担った人たちの例を説明- エンジニアはエンジンを操るオッサン!! エンジニアは、 ・眼高手低−現実の視点 でものを見る ・Durchsetzung−断固たる実行 最後にもう一度言います。 今あるものの新しき結合は山ほどたくさんある。それを発想し、断固としてやる。 この2つのお仕事を是非やっていただきたい。 そうすれば、日本のエンジニアの時代がやってくるし、日本もまた元気な姿に帰ると思います。 質問: 本日は賀詞交換会と兼ねて新春早々と言ってふさわしいかどうか分かりませんが、新年早々いいお話を聞かせていただいて大変有難うございました。 私の理解が十分でない、あるいは多少偏見をもっているかも知れませんが、新しいビジネスモデルというのが、今、非常に重要だというのは私も同感なのですが、そういう意味でみますと、例えば、携帯のことにしろ、ブロードバンドのことにしろ新しいビジネスモデルを作ってきているのではないかという気がします。確かに、その中にある技術は新しい技術と要求技術の組み合わせ、いかに技術的に安いものを組み合わせて安いサービスを作り上げるかという側面も大事だと思います。 一番先にご説明された式の中で、MV=PQが出てきますが、そういう意味においてベロシティというものについて言えばビジネスモデルというものが、ものすごく早いと理解しているのですが、逆に言うと1つ1つの商品価値から言うと非常に安くなっている。結果においてM×Vが量として見た場合あまり大きくなってきていないような気がします。そういう意味において日本で出てきている新しいビジネスモデルは結局大きな意味で国を動かすようなところにいたらないのではないかという気もするのですが、その辺についてはいかがでしょうか。 以降、回答、質疑応答。 |